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ブランショ、スピード、情報量、あと少しメシの話

前回、『フロイト全集』の月報に書いた文章の話をしましたが、執筆中、考えを進める上で、「素人分析」と並んでヒントになったのが、ブランショでした。

俺はブランショはけっこう苦手だったのだけれど、ふとしたきっかけでブランショについて書く機会を与えていただき、猛勉強して書いたのが、『思想』2007年7月号掲載の「抽象性と超越論性——ドゥルーズ哲学の中のブランショ」という論文。

http://www.iwanami.co.jp/shiso/0999/shiso.html

この論文はけっこう気に入っているのだけれど、その話はさておき、論文のためにブランショの『災厄のエクリチュール』を猛スピードで読み進めるうちに次の言葉を発見しました。

「私の思うに、精神分析の語彙とは、ただ精神分析に従事している者だけが、すなわち、その人にとって精神分析が危険であり、極限的な危機感であり、日々の検討対象である、そのような者だけが使うことのできるものだ。——そうでなければ、精神分析は一個の確立された知識体系にそなわった便利な言葉でしかない。」

Maurice Blanchot, L'écriture du désastre, Gallimard, 1980, p.110

(※フランスのamazonの貼り方が分からない…。日本のamazonではこの本は出てこなかった)

なんか、これを読んでブランショのことが少し分かった気がして、そうして分かってきたブランショの思想は結構好きかもって思うようになった。

なんか、男気を感じさせる言葉です。

ブランショには、なんというか、ダラダラしているというイメージがあって(ブランショ研究者の方、テキトーなことを言ってすみません…)、そもそもデリダのブランショ論は『滞留』だけど、それって要するに『ダラダラする』ってことだよなぁとか、思っていたわけです。

でもむしろ彼の中にあるのは、強い倫理性なのだということが分かってきた。

ブランショは若い頃右翼だったらしいけど(とはいえ、俺はフランスの右翼がどういうマインドの持ち主なのかは詳しくは知らない)、それも、彼の強い倫理性と男気から来たものだったのではと感じました。

俺の中でブランショはなんとなく吉本隆明と重なる。

今回の月報の文章では、ブランショの上の問いかけに答えるという形で書いています。よかったら読んでください。月報だからなかなか手に取りにくいかもしれませんが。

最後に少し、「ダラダラ」について。

俺はスピード感のあるのが好きです。

映像でも文章でも。

せっかちなので。

で、よく誤解されるのだけれど、スピード感があるというのは、単に次から次に要素が置き換わっていくということではありません。

一度に提示される情報の量が多いということです。

だから、スピード感のある文章とか映像とかは、とにかく情報量が多いわけです。

駄目な映画は、たとえば「暴力はいけない」とか「家族愛は大事」とか、それしか情報がない。

すごい映画は、一度見るだけじゃ、絵においても、物語においても、提示されている情報を捉えきれない。

それぐらいがちょうどいい。

最近、ファスト・フードに対してスロー・フードというのが言われます。

俺の考えではファスト・フードは、「速い」のではなくて、これも「情報がすくない」。

つまりファスト・フードは正確には、インフォ・プア・フードと呼ぶべきです。

たとえば、牛脂の味しかしない。歯ごたえになんの変化もない。

処理すべき情報が少ないメシだから、すぐに食べられるわけです。

要するに、ファストであることは、そのメシの存在様態の結果である。ファストであることを結果として生み出す原因は、インフォ・プアという契機にこそにある。

うまいメシには、ものすごいたくさんの情報が詰まっている。レタス一枚でもそう。

(みなさん、フランスにいったら是非レタスを食べてください! たくさん種類があります! あと、パリパリしてて——「クラッカン」と言う——ポテトチップスを食べるような感覚です! あと味が濃い!)

したがって、それらの情報を口の中で処理するのに時間がかかる。

たとえばハンバーグなら、牛と豚の味の浸透、タマネギの甘みとクセ、すこし焦げているところをブツンと切断した直後に現れる肉のにおいと肉の弾力。これらを処理するにはそれ相当の時間がかかる。

食べることがスローになってしまうのも、そのメシの存在様態の結果。スローであることを結果として生み出す原因は、インフォ・リッチにこそある。

だいたい、要素の少ない食事、情報量の少ない食事を、スローに食べてたって仕方ない。

これからは、ファスト・フードとスロー・フードの対立を脱構築するインフォリッチフードの概念が重要でしょう。

原因と結果の概念でメシの分析もできます。