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今日は軽く、本の紹介と、すこしだけカント、「嘘論文」

いくつか、軽く、本の紹介です。

最近の光文社古典新訳文庫と中山元の組み合わせはすごい。

すごいというか、俺の趣味関心をあまりにもなぞってくれていて驚く。

今月はマルクスの『経済学哲学草稿』が出た。

経済学・哲学草稿 (光文社古典新訳文庫)/マルクス

¥680

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俺はいま書いている本でこれに言及しているんですね。

あと、昨年、勤務校の授業でずっとカントの歴史哲学をやっていたのだけれど、その際は、『永遠平和のために/啓蒙とは何か 他三編』に大変お世話になりました。

永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫)/カント

¥680

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カントの歴史哲学は或る意味でフロイトの文化論に受け継がれています。

人間の残酷さを前提として歴史を見ていくということです。

カントは、人間は悲惨な出来事を経つつ歴史が進歩していくと言っていますので。

ここから、戦争やなんかがあるのは仕方ない、となるのかどうか。

そのあたりが難しいところです。

カントの歴史観はベンヤミンの歴史観にも近いと思う。

人間は、無理矢理に、強制されて、嫌々、仕方なく、進歩していく。

「あぁ、進歩したくないのに…」。

という感じなのでしょう。それなのに進歩してしまう。

ベンヤミンもそんなことを言ってました。

歴史の天使は後ろ向きなのに、風の生で前に引きずられていくとかなんとか。

で、そのフロイトの文化論も、いいセレクションで翻訳してくれました。

幻想の未来/文化への不満 (光文社古典新訳文庫)/ジークムント フロイト

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人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス (光文社古典新訳文庫)/フロイト

¥620

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ルソーの有名な二冊もよかったですね。

人間不平等起源論 (光文社古典新訳文庫)/ジャン=ジャック ルソー

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社会契約論/ジュネーヴ草稿 (光文社古典新訳文庫)/ジャン=ジャック ルソー

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因みに俺は『不平等起源論』の方が圧倒的に好きです。

自然状態論っていうのは本当におもしろい。

ところで、カントですが、出来れば、有名なところで「嘘論文」なんかもおまけで入れてくれたらうれしかったのですが、それは無い物ねだりでしょうね。

「嘘論文」というのは、カントがどんな場合でも嘘を言ってはいけないと書いている論文ですね(正式タイトルは『人間愛から嘘をつく権利と呼ばれるものについて』です)。

「命を狙われているんです!」という人が玄関に来た。

「かくまってください!」

で、かくまう。

暫くすると、そいつの命を狙う人物がやってくる。

「こういうやつがこなかったか? ここにはいないか?」

さて、ここで嘘をついて「いない」と言うべきか?

「嘘をつくべきではない」とカントは言うのですね。

たとえば

その時にかくまっていたひとが不安になり、裏口から外に出ていたとしよう。

「そんな人はいませんよ」

といって人を追い払った後で、二人が家の近くでばったり出会ったらどうするか?

つまり、自分の行為がどういう結果を招き寄せるのかは分からないのだとカントは言うのです。

この論文はカント研究者によって様々に論じられてきたそうですが、俺は、アレンカ・ジュパンチッチの解釈が一番納得しました。

リアルの倫理―カントとラカン/アレンカ ジュパンチッチ

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ジュパンチッチによると、嘘論文はカント倫理学を裏切っているというのです。

カント倫理学は、ああしろこうしろと命令しない。

たとえば「汝盗むなかれ」とか書いてない。

つまり、内容はない。

自分が何かをするときの法則がそのまま普遍的法則としても問題ないものであるように毎度毎度行動しなさいという、そういう倫理学です。

行為の形式だけを論じているので、形式主義などとも言われますが、それは対して重要なことではありません。

重要なのは、自分で「これは普遍的法則としても問題ない」と判断できること、そして判断できるようになることである。

ジュパンチッチはそう言うのです。

つまり、主体そのものがそういった判断ができるような高次の主体へとレベルアップしていくこと、それが重要なのだ、と。

だから、あらかじめ内容をこの倫理学の中に書き込んでおくことができない。

だって、新しい判断の素材に出会ったそのたびごとに、毎度毎度判断できなければならないからです。

すると、あの嘘論文はどうか?

あれは、判断されるべき内容をあらかじめ与えてしまっている。

こういう場合にはこうしなさいと書いてしまっている。

だから、カント倫理学を裏切っている。

こういうわけです。

ジュパンチッチの本はそんなに話題になりませんでしたが、この指摘はなるほどと思いました。

多分、カント研究者の方々の間ではいろいろと複雑な議論があると思いますので、もっと詳しく知りたいひとはそっちも参考にしてください。