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新聞記事、人文業界の変化、歴史の狡知

千葉雅也さんと

2月19日に新宿ジュンク堂にてトークイベントをした際、

東京新聞の記者の方に取材を受けたのですが、

その時のことが記事になりました。

「空前の哲学ブーム? カント、スピノザ...講座が人気」東京新聞夕刊 2011年3月22日

ありがとうございます。

でもこれはブームというより、

もっと大きな変化じゃないかと思っています。

上のイベントを

ご自身のブログで紹介してくださっている

ジュンク堂書店新宿店の阪根さんも書いてくださいましたが、

これは

「これはサンデルブームとかではない。/何かが変わった。」

書店で人文書を担当されている阪根さんが

そういう実感をもっていらっしゃるようです。

俺も感じます。

記事では「哲学の復権」という言葉もでてくるんですが、

俺としてはそれもちょっと違和感がある。

古いものがもう一度でてきてるんじゃなくて、

いま何か新しいことが起こりつつある、作られつつある

そういう実感があります。

まず書き手が変わってきている。

長大なストーリーをもった哲学書が

いまたくさん書かれ始めているんですね。

俺は学生のころから、

上の世代の書き手たちが

雑誌に載せた短いエッセイみたいのをまとめた本しか出版しないことに

ものすごい違和感を感じていました。

執筆依頼があって受け身で書いただけなのに、

なんかあらかじめテーマがあったかのように

大袈裟なタイトルが付されて一冊の本にされる。

そんなテーマはもともとはなかったから、

その大袈裟なタイトルにだまされて本を買うと

そのタイトルが臭わせている問題などまったく追求されていない。

たとえば

ドゥルーズの『差異と反復』だったら

差異とは何か? 反復とは何か?

それが徹底的に論じられているわけですよね。

俺の『スピノザの方法』だって、

スピノザの方法とは何か?

それを徹底的に論じているつもりです。

そういうことが

なぜか行われていなかったのです。

その理由は実のところ簡単で、

人文系の学生が博士論文を書くようになったからです。

博士論文には長大なストーリーが必要です。

長大なストーリーを構想する能力を

博士論文執筆のなかで培うわけです。

それ以前だって博士論文は書こうと思えば書けたはずです。

だけれどほとんどの人は書こうとしなかった。

その理由も簡単で、

就職口があったからです。

博士論文を書かなくても就職できたから、

そのまま就職して、

雑事に追われてそのまま…ということだったのですね。

俺等の世代はそういうわけにはいきません。

生きるか死ぬかの闘争ですから、

みんな必死で博士論文を書きます。

幸か不幸か、

そうした過酷な環境が

いまの人文業界の再編と活性化を生み出しています。

歴史の狡知としか言いようがありませんね。

でも

俺はこれは本当にいいことだと思っています。

こうして長大なストーリーをもった本を読み手のひとたちに提示してみたら、

案の定

「哲学ブーム」とか「難しい話をしても大丈夫なんだ」というぐらいの反応がある。

つまり、

いいものを出していけば、いい反応があるということなのです。

ある有名な編集者が

書評誌を作ったことがありました。

その人は結局

読み手の関心の薄さに絶望して

雑誌も放棄してしまいました。

俺が学生の頃のことです。

彼が新聞で書いていた記事が頭に焼き付いています。

「最近、ヘーゲルの歴史哲学の新訳が岩波文庫で出たが、学生たちはそれを話題にもしていない。私が学生のころなら考えられなかった話だ」

俺はこういうことを言う人に

声を大にして言いたい。

「あっそ」

ヘーゲルの歴史哲学がどうおもしろいのか、

君が説明すればいいだろう。

今の学生がおもしれーと言わずにはいられないような解説をすればいいだろう。

できないんだろ、どうせ。

そういう人に限って、

今の社会や若い世代のことを嘆いてみせる。

自分の無能を隠すために周囲の状況を嘆いてみせる人たちには

もう飽きた。

実際、

こうやって書き手が変わってきたら

読み手も変わってきている。

俺が学生時代のころから感じていた鬱憤が

いまはらされつつある。

ここからが勝負だと思う。

俺もこのいい雰囲気を維持していけるように、

いろいろ応援していきたい。

もちろん自分でもきちんと本を出版していきたい。

いま、二冊目を書いています。

夏前には出せると思います。

今度は専門書ではなくて、

一般書です。

あと、

冒頭で紹介した千葉くんとのトークイベント

動画が配信されていますので、

ぜひご覧ください。

【映像】國分功一郎×千葉雅也「スピノザの哲学原理」(2011年2月19日)