プレビューモード

SSRI, Columbine, Marilyn Manson

『NHKスペシャル うつ病治療 常識が変わる』

という本を読んだのですが、

いろいろ考えるところがありました。

NHKスペシャル うつ病治療 常識が変わる/NHK取材班

¥1,200

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近代合理主義者たる俺にとっては

うつ病というトピックは鬼門です。

でも、

だからこそ出来る限り参考になる本を読んでみようかと思っています。

間違いを晒して指摘してもらった方がいい。



この本、

基本的に

薬物治療の問題点を指摘したものです。

心の病に対する薬物治療の問題点というのは

世界的にもクローズアップされているように思っていましたし、

世界的にも薬物治療が良くも悪くも治療の主流になりつつあると思っていましたが、

この本によると

日本は飛び抜けて薬物治療への依存度が高いようです。




興味深い記述を見つけました。

「ヨーロッパでは、うつ病は治療が難しい病気とされ、患者本人とじっくり向き合うことで心に潜む問題を探し出すことが大切とされてきた。そのため、精神科医には哲学的な素養も求められていた。その伝統は、一九六〇年代から抗うつ薬の開発が急ピッチで進み、薬による治療が主流となった現在も変わらない。」(p.41)

精神科医に「哲学的な素養」が求められるというのは、

それこそ

フランス現代思想を囓った人間ならすぐに分かります。

ラカンというのは医者ですけど、

その理論は哲学そのものを揺るがすような大事件になったわけです。

むしろ、

哲学より過ぎるんじゃないかという感覚さえあります。

ラカンは違いますけど、

精神分析理論を

何でも説明できる理論のようにしてもてあそぶ傾向があちこちにみられたぐらいです。

俺もそのことに対する違和感から出発してフロイトについて短文を書いたことがありました。

※それに関しては次のエントリーを参照してください
http://ameblo.jp/philosophysells/entry-10556848894.html
http://ameblo.jp/philosophysells/entry-10557263826.html

それはともかくとして、

精神科医に哲学的な素養が求められるというのは

普通のことだった。



さて、

どうやら日本ではそうではなかったらしいです。

日本では統合失調症(昔は精神分裂病と呼ばれていた)の患者が多かった。

これは症状が重篤な場合が多く、薬によって症状を抑える研究が盛んに行われた。

「時代とともに、統合失調症の患者が減り、うつ病が増えていくなか、アメリカから入ってきた優れた抗うつ剤を多くの医師が積極的に使用したことは想像に難くない。」(p.41)

こういう背景の違いがあって、

日本は薬物治療への依存度が他国と比べてもダントツに高いらしいです(p.39参照)。




薬物治療で精神分析がもはや用なしとなるのかどうかについては多くの議論があります。

デリダも

晩年にまとまった形で精神分析に言及した

"États d'âme de la psychanalyse", Galilée, 2000(『精神分析の気分』)

という本の中で薬物治療の問題に言及していました




さて、

この本で自分の無知を恥じ入る例がいくつかありました。

99年に、

「飛行機に乗ってレインボーブリッジの下をくぐってみたい」

という「動機」から、

男が、羽田発函館行きの全日空機をハイジャックして機長を刺殺する事件があったのをご記憶でしょうか。

当時はこの突拍子もない動機ばかりが取り上げられたのを記憶しています。

また、

ある日本の知識人も

日本人の幼稚化の例としてこれをとりあげていました。

ところが、

この本によると

犯人の男は、前の年からSSRIという現在広く使われている抗うつ剤を使用しており、

この事件の最高裁判決でも、SSRIの他者への攻撃性が認められたそうです。



もちろん、

だからといってSSRIという薬が絶対にダメだなどということにはなりません。

ただ、

この事実がどれだけ知られているのか。

俺は知りませんでした。

とにかく、

この事件を

「幼稚な動機からとんでもない事件を起こすやつが増えている」

という風に片付けるのは完全な誤りでしょう。




また、

マイケル・ムーアの『ボーリング・フォー・コロンバイン』というドキュメンタリー映画がとりあげた

コロラド州コロンバイン高校での銃乱射事件。

あの事件の犯人の一人も

事件の直前に大量のSSRIを服用していたことが分かっています。

この事実についても、

日本ではどれほど知られているのか。

俺は知りませんでした。




ああいった事件が起こると、

マスコミは分かりやすい原因を求め、

叩きやすい輩を叩く。

『ボーリング・フォー・コロンバイン』では、

マリリン・マンソンのことが取り上げられていました。

日本で言えば、ビジュアル系という感じですけど、

死だの悪魔だの恐怖だのをうたっており、

犯人の二人がマンソンに影響を受けていたとされて(ファンではなかったという話もあるようですが)、

彼がマスコミに猛烈に叩かれた。

マイケル・ムーアは映画の中でマンソンにインタビューしています。

俺は

『ボーリング・フォー・コロンバイン』という映画は好きですが、

一番好きなのが、

あのインタビューの場面です。

っていうか、

感動した。

あれだけ叩かれても

マンソンは

あのすごい格好のままで

少しも臆さず

冷静に率直に

インタビューに答えている。

ああいうことはなかなかできない。

ユーチューブにもある ので是非皆さん見てください。


ウィキペディアを見たら

マンソンのインタビューでの発言の要旨がまとめられていたので引用。

・「事件のことで俺が糾弾される理由は分かる。俺を犯人に仕立て上げれば(マスコミに)都合が良いからだ」
・「俺が表現しているものは恐怖だ。そのことで誰にも遠慮はしていない」
・「あの悲惨な事件は2つの副産物を生み出した。娯楽における暴力的な描写と銃規制だ。この2つは次の大統領選挙の争点と重なる。だが、人々は、大統領(ビル・クリントン)がモニカ・ルインスキーとホワイトハウスでしたことや、他の国を爆撃したことも忘れている」
・(コロンバイン高校銃乱射事件が起こったその日に、アメリカがコソボを空爆したことについて)「皮肉な話だよな。大統領のせいであんな悲惨な事件が起きた、とは誰も言わない。メディアが望む形で恐怖を生み出せないからだ」
・「毎日視聴するテレビのニュースで、人は恐怖を詰め込まれる。アメリカ政府とマスコミが恐怖と消費を煽っている。アメリカの経済はそういう仕組みになっている」
・(「コロンバインを襲撃した犯人の高校生に言いたいことは?」と聞かれて)「何もない。ただ黙って彼らの言いたいことを聞く。誰1人としてそれをやらなかった」




マンソンの最後の言葉は

このエントリーで取り上げた話題にとっても

とても大切なものであるように思います。